フランス ナントにて依頼主と

メッシュ和紙制作の様子

メッシュ和紙 誕生物語

きっかけは建築家 隈研吾氏の現場から

メッシュ和紙が誕生した経緯については、当工房代表小林康生と建築家隈研吾氏との建築の仕事を通しての関わりがあります。
2015年の秋。隈建築事務所から越後門出和紙にこんな相談がありました。

「パリの画商エマニエル・クラベ氏からオフィスの壁素材について、大の日本好きの希望で、障子やふすまの代わりに、金網と和紙を使ったものを作れないか?」
これまで金属で紙を漉くことなど考えもしなかった小林は当初戸惑いましたが、建築物に金属が使われるのだから、いつか楮と金属の融合も必然となることから、製作を引き受け、金網で和紙を漉くという他では類を見ない和紙作りにとりかかりました。

ブラジル サンパウロの「ジャパンハウス」の内装素材として

ブラジル『ジャパンハウス』でのメッシュ和紙作り

ちょうど時を同じくして、隈氏が設計する、外務省の事業でブラジル・サンパウロで建設中だった、「ジャパンハウス」の天井と壁素材の天井部もメッシュ和紙を使用することが決まりました。
その際、「実際に現地にいって製作してくれないか」と隈氏から頼まれた小林は2016年の夏、ブラジルサンパウロに向かいました。ちょうどリオオリンピックが開かれていた時期でした。

以前、スイスで紙漉きワークショップを行った経験から、当初、原料を脱水にかけて送ろうとしましたが、ブラジルは検疫が厳しく、完全な紙ではないと輸送は無理ということがわかりました。そこで、紙を枠に流し込んで楮パルプにして送ることにしました。
漉き船や金網を漉く道具についても、普段使っているものとは形も大きさも違うものですので、小林は自ら設計し、ジャパンハウスの現地スタッフに作ってもらうことにしました。
現場では通訳も交え、現地のスタッフと一緒にメッシュ和紙の製作にあたりました。誰も今まで作ったことのないものを作ることは常に試行錯誤の連続です。重いステンレス製の素材から軽めのアルミ製の素材まで、素材選びから金網の大きさまで、色々試しながらの作業でした。
小林が現地を離れたあとも作業は継続して行われ、翌年5月にジャパンハウスは竣工しました。

メッシュ和紙制作の様子

パリでのメッシュ和紙の製作

ジャパンハウスの仕事が終わったあと、いよいよパリの画商のオフィスの壁素材作成の仕事にとりかかることにしました。
今度は小林自身の他に、息子抄吾とイスラエルの弟子であるイズハ、それに当時隈建築事務所のパリ事務所でインターン生として働いていた川根君が製作に加わりました。

製作現場となったのは、フランス・ナントにある大型客船の家具などを専門に作っているアトリエ・ノルマン社が運営する木工家具の学校の実習現場。道具作りはそこで学んでいる学生たちも手伝ってくれました。

サンパウロでの製作の経験が活き、ナントでのメッシュ和紙作りは順調に進みました。
その後、製作したメッシュ和紙は実際にパリの画商のオフィスに使用されています。

じょんのび村のエントランスの照明

灯りとしての可能性

フランスでの仕事からしばらく経ったあと、地元高柳にあるじょんのび村が近々リニューアルするという話が出てきました。当時の市の担当部長から、「じょんのび村のホールで何か一目を引くような和紙の灯りを考えてほしい」と相談された小林は、自身が手がけたメッシュ和紙を灯りに利用できないかと考えました。

壁用のメッシュ和紙との大きな違いは、手で折り曲げられるほどやわらかい材質の金網を使用したことです。
金網を丸めて筒状にすることで、中央からの灯りがまんべんなくメッシュ和紙全体に透過するようにしました。
完成したメッシュ和紙の灯り第一号は現在、じょんのび村のホールにて、今も私たちを出迎えてくれます。

メッシュ和紙の今後

メッシュ和紙は壁素材から灯り素材と、これまで用途に応じてその形を変えてきました。
広義で言えば、和紙はこれまで使い手の要望に応じて、その形を変えてきたものであり、メッシュ和紙の登場とその変化もある意味必然であると思います。今後は壁素材や灯りのみならず、より生活に密着したインテリア商品としての可能性を模索していきたいところです。
門出和紙がこれまで大事にしてきた根っこのある紙。すなわち、楮のなりたい紙を考えること。このことをこれからも大切にしながら、作り手と使い手が、和紙の未来について一緒に考えていくきっかけになるよう、皆さんと一緒にこのメッシュ和紙も大切に育てていけたらと考えております。

メッシュ和紙の灯り 製品

メッシュ和紙の紙すき

客室照明 写真提供:ホテルニューアカオ

「メッシュ和紙」とは金網に和紙の原料である楮を流し込んで漉いたものです。おそらく全国の紙屋さんの中で、他に類を見ないものだと思います。

従来の和紙の常識からすると「これが和紙?」と疑問に思うかもしれませんが、自然に寄り添い、「楮のなりたい紙をつくる」ことが基本理念の門出和紙としては、これも楮のなりたかったカタチのひとつではないかと思い、金属と楮の融合ということで、「メッシュ和紙」は生まれました。
そして、私たちの生活に根差したモノのひとつの形として「メッシュ和紙の灯り」を製作しました。金網と和紙の合い間から洩れるやわらかい灯りがなんとも言えない美しさです。ぜひ皆さんのご家庭でもお楽しみいただければと思います。

越後門出和紙×正藍染紗雪コラボ商品 メッシュ和紙と正藍染の灯り

藍染め師であると同時にキャンドル作家でもある「正藍染・紗雪」では「自然の色を灯りに生かしたい」と、長い年月をかけて藍染和紙キャンドルを制作してきました。藍染と和紙がおりなす灯りは、やわらかでとても美しいです。蜂の巣のような無数の凹凸と穴があるメッシュ和紙は大変魅力的で、染めるご縁をいただきました。
金網からこぼれる藍のグラデーションと和紙の灯りからは、降り積もった雪の色、海の色、空の色など、様々な情景が浮かんできます。

正藍染・紗雪

「藍染め」

「洗い」

「天日干し」