伝統的に漉き続けられてきた生紙の歴史と文化。
楮は桑科の落葉低木で、雪解けの4月末頃に株から新芽を出し、降雪前の12月初旬までに3~4mに成長する。
5月、畑の中耕に合わせて、雑草の刈り払いや幹より出たばかりの枝目を取る芽かきを8月頃成木になるまでの間、3~4回繰り返す。
11月中旬、落葉を待って刈り取る。桑きり鎌を使って楮をしなわせながら、翌年の切株保護のため一瞬にして切らないと木が割れるので、男のみで行っている。
3~4cmの原木を、1mほどに切り、大釜で約90分蒸す。
蒸し上がった楮の皮を、1時間以内でむく。乾いてしまうと皮は再び木にくっついてしまう。
水をかけると乾きにくいので時間をかけてむくことができるが、雪前のもっとも天候が気になる季節の仕事なので、できるだけ手早くむいてしまう。
風通しが良く、一日中陽の当たる場所になげしを作り、黒皮15本ぐらいを1束にして干す。半分ぐらい乾いたら上下を手返ししてわらで縛り直しまた干す。そのままにしておくと腐るので。
現在はわらの乾燥機を使い、天気に左右されず皮を干している。
楮の黒皮を水に浸して包丁で表皮を削り取る。ワラジを裏返しにした台に皮を置き、包丁の背を下に皮を押し抑えつけて、皮の方を引きながら表皮を削る(芽落とし)。
さらに深く削り取った(なぜ皮)、緑色部分をすべて剥ぎ取った(白皮)と3種類に分ける。
剥ぎ取った後、両端や傷など包丁で切り除く。
楮皮を一握りづつ水桶の中で濯ぎながら洗う。
強く濯ぐ(一番洗い)、ゆっくり流水の中で濯ぐ(仕上げ洗い)をする。
大釜の中に木灰液やソーダ灰を入れる。アルカリ性の水によって皮の中の繊維やそれらに固定している不純物などを、水に溶けるまで3時間ほど煮る。
寒の季節、皮引き後乾燥しない生の皮のまま煮ると、低アルカリでも煮熟が可能であり、コクのある紙が仕上がる。
煮熟後の原料は、動かすたびに形が崩れ、ちりよりが困難になるので、桶の中でそっと水洗いをする。
3回ほど水を入替え不純物を洗い流すが紙の用途に応じて、歩止りや強度を必要とする紙は程々に、虫やカビなどつきにくい高級紙は、丹念に水洗いを繰り返す。
水の中で1本1本、楮皮の表裏、丹念にキズやちりを取り除く。
最初、大叩きをして水を絞った原料を、堅木の上に広げて大きな木刀で左右にゆっくり強く叩く。
その後小叩きとして水を加えながら小さな木刀で早いリズムで軽く叩く。
仕上げに近づくほど水を加えていく。
(イ)手打ちの大叩きの代わりになる叩解機による紙叩き。
(ロ)手打ちの小叩きの代わりの薙刀。ビーターによる羽を水中で回転させる紙叩き。
紙漉きの時、原料に混ぜる植物粘液をネリという。
ここではトロロアオイの根をつぶして、出てくる粘液を利用する。
13-1 紙料とネリ加減
漉き舟に水を張り、紙料とネリを入れて馬鍬でかき混ぜる。漉く紙が薄いほどネリを増やす。
ネリの働きで1cmほどの繊維の1本1本を粘液が包み込むので、水中でバラバラに解かれる。
13-2 上水を組み込む
竹ひごを絹糸で編んだ簀と桁を使って、紙料の上水をすばやく組み込む。初水、天地、左右に揺すり厚さを決める調子。
ちりが付かないように紙面をなぜるように捨て水をする。
13-3 くれづけ
くれ台に1枚づつ漉きあげた紙を空気が入らないように積み重ねていく。
前日に漉きあげた紙床を、半日ぐらいの時間を掛けながら少しずつジャッキで水分を切る。
2尺×3尺の紙で5~10tかける。
冬期間、漉き続けられた紙床は、野外の雪の中に埋められその上に雪が降るので竹竿で目印をつけておく。
板干し天日乾燥できる3月の晴天の頃に掘り出す。この紙床をかんぐれという。保存が目的である。
現在は雪穴の中に保存している。
16-1 板干し天日乾燥
イチョウ、杉、栃などの板に紙床から1枚づつ剥がして刷毛で刷きながら板に張りつける。
板干し天日乾燥は、その日その時の気温、日差しが1枚の紙に表れるのでバラツキがあるが、強度・風合ともに火力乾燥に勝る。
16-2 火力乾燥
ステンレス板の中にお湯を溜め、その熱で乾燥する。独自で開発した給湯器を利用しながら、ポンプでお湯を循環させているので厚さに応じた温度設定が可能である。
天候季節を選ばず能率がよく、紙の品質も一定に揃うが、板干し乾燥には及ばない。
1枚づつ明かりにかざして、キズ、厚さなどを分別する。