代表メッセージ

代表 小林康生

撮影 坂田辰栄

 私が紙の道に入って、ちょうど半世紀になります。
我が家は、伊沢紙やふわた紙という半紙を冬場のみ副業として漉き、私が5代目となります。本業とすべく作業場建築のため冬季の出稼ぎ3年、夏季は原料の楮畑の開墾からの出発でした。弟子入りをしなかったので失敗が先生でした。2、3人の小さな工房でしたが1985年、朝日酒造様の「久保田」のラベルを担当することに伴い、その成長は目覚しくスタッフの増員、新工房の建築で自分の想定を超えることになってしまいました。
 仙人のような生き方を目指した私にとっては場違いの人生でもありましたが、多くの愛飲家に支えられ、過疎の村にとっては地域貢献につながり、ありがたいことでした。
 現在の暮らしの中で生紙(和紙)が普段使いの中からどんどん姿を消し、手の届かないモノになりつつあります。現代、将来の暮らしが自然と寄り添うものであってほしい、その中に生紙が使われることを願っております。
 長い間、生産ばかりを続けてきましたが、身近な暮らしの中に普及する行動も模索する必要があるようです。素材を作る立場からは作品にも手を染めることにはいささか抵抗もあるのも事実ですが、作家からの立場からではなく素材屋の立場から様々な作品提案を一緒に考え、体感するワークショップも試行してみたいと思っています。
 様々な取り組みの中でも失ってはいけないのは、当工房の理念が「風土の紙を育てる」です。この地で生まれる必然があるモノを作るには育てる相手(楮)と折り合いをつけながら、つまり「楮がなりたい紙」を使い手に自然の呼吸感をそのまま届ける仕事です。従って、この地の風土を理解する心が基本となります。風土の結晶はその地に暮らす人々の中に潜んでおります。変化するものと変化しないものを追い駆けることになります。手仕事の多くが経済的優位の産業とは言えませんが、自然の恵みや苦しみを感じ取り、両方の足を大地に支えながら生きることが当たり前だった時代の確かな仕事です。
 今回、工房としては初めて次世代に引き継ぐため、公の場にその仲間を募集することとなりました。